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オリエ新制作のトゥーランドットが衝撃的すぎた話


どうもこんにちは!気づけば1か月以上ブログを更新していなかった、井中まちです!

 

ヒィェエエエまじでか!月日の流れって早いですね!

まあブログが更新できていなかったのは、お察しのとおり原稿に追われていたからです。

あと愛用のPCちゃんの動作がやたら重くなってしまって、どーにもこーにもファインディング・ニモだったからです。

 

ちなみに原稿はまだまだあるし、PCちゃんはますます挙動があやしいですが、まあでもいまはブログ書きたい気分だったから!!

いやしかしPCちゃんがこのままダメになってしまったらどうしよう……そんな出費できないんですけど……?

とりあえず秋の新刊の原稿がひと段落してからでよかったかな?なーんて。

よくねーわ。ぜんっぜんよくねーわ。

 

原稿はなぁ!!終わっても終わっても終わらねーんだヨッ!!

 

えーーーーーーと。

何の話でしたっけ??

 

そうそう、オリエ新制作のトゥーランドットの話ですよ!

 

いやもうこれがね!ほんとに衝撃的でして!!

トゥーランドットはフィギュアスケーター荒川静香さんがオリンピックで金メダルをとったときに使用したことでも有名なプッチーニのオペラですが、それが「オペラ夏の祭典」と称してこの7月~8月にかけて東京他で上演されたんですね。

私は東京文化会館で7月13日に鑑賞したんですが、なんでこんなに感想書くのが遅くなったかというと、「これはいまはまだネタバレできないな」って思ったのとあまりに衝撃的すぎて消化するのに時間がかかったからです。

でもいまならもう全公演終わってるし、ネタバレしまくりながら感想垂れ流しても許される気がする!

 

というわけでこちらの記事は思いっきりネタバレありの記事になりますのでご注意くださいね!

 

さて、まずオペラ・トゥーランドットのあらすじからご説明したいと思います。

めちゃくちゃ簡単にいうと、中国の冷酷なお姫様を愛の力でラブ&ピースさせてみんなハッピーハッピー!!っていう話です。

……もうちょっと真面目に説明しますね(Wikipedia先生が)。

 

 

時と場所:いつとも知れない伝説時代の北京

 

第1幕

宮殿(紫禁城)の城壁前の広場。役人が群衆に宣言する「美しいトゥーランドット姫に求婚する男は、彼女の出題する3つの謎を解かなければならない。解けない場合その男は斬首される」今日も謎解きに失敗したペルシアの王子が、月の出とともに斬首されるべく、喝采する群衆の中を引き立てられてくる。

敗戦により、国を追われて放浪中の身であるダッタン国の王子カラフは、召使いのリューに手を引かれながらさ迷う盲目の父、ダッタン国の元国王ティムールを発見し、3人は互いに再会を喜ぶ。

ペルシア王子処刑の様子を見にトゥーランドット姫が広場に現れ、カラフは一目見てその美しさの虜となる。

ティムール、リュー、そして宮廷の3大臣ピン、ポン、パンが思いとどまるよう説得するが、カラフはトゥーランドットの名を叫びながら銅鑼を3回打ち鳴らし、自らが新たな求婚者となることを宣言する。

第1幕では、トゥーランドット姫は一切声を発さない。

 

第2幕

ピン、ポン、パンの三大臣が軽妙なやりとりで姫とカラフの噂話をしている。

そのうち、帝の出御となり群衆が集まる。万歳の叫び声の中、皇帝アルトウームがカラフに無謀な試みをやめるよう説得するがカラフは耳を貸さない。こうして姫が冷やかな表情で出てくる。

カラフの謎解きの場面。トゥーランドット姫は、何故自分がこのような謎を出題し、男性の求婚を断ってきたのかの由来を改めて述べる「かつて美しいロウ・リン姫は、異国の男性に騙され、絶望のうちに死んだ。自分は彼女に成り代わって世の全ての男性に復讐を果たす」。

 

第一の謎「毎夜生まれては明け方に消えるものは?」カラフ曰く「それは希望」第二の謎「赤く、炎の如く熱いが、火ではないものは?」「それは血潮」カラフは2つまでも正解を返す。最後の謎「氷のように冷たいが、周囲を焼き焦がすものは?」カラフは暫く悩むが、これも「トゥーランドット!」と正答する。

 

謎がことごとく打破されたトゥーランドット姫は父アルトゥーム皇帝に「私は結婚などしたくない」と哀願するが、皇帝は「約束は約束」と娘に翻意を促す。

カラフは姫に対して「それでは私もたった一つの謎を出そう。私の名は誰も知らないはず。明日の夜明けまでに私の名を知れば、私は潔く死のう」と提案する。

 

第3幕

北京の街にはトゥーランドット姫の命令が下る。

「今夜は誰も寝てはならぬ。求婚者の名を解き明かすことができなかったら住民は皆死刑とする」カラフは「姫も冷たい部屋で眠れぬ一夜を過ごしているに違いない。夜明けには私は勝利するだろう」とその希望を高らかに歌う。

ピン、ポン、パンの3大臣は多くの美女たちと財宝を彼に提供、姫への求婚を取り下げるよう願うが、カラフは拒絶する。

ティムールとリューが、求婚者の名を知る者として捕縛され連行されてくる。

名前を白状しろ、とリューは拷問を受けるが、彼女は口を閉ざし、衛兵の剣を奪い取って自刃する。リューの死を悼んで、群衆、3大臣など全員が去り、トゥーランドット姫と王子だけが残される。

 

王子は姫に熱い接吻をする。リューの献身を目の当たりにしてから姫の冷たい心にも変化が生じており、彼を愛するようになる。ここで王子ははじめて自らの名がカラフであることを告げる。「名前がわかった」と姫は人々を呼び戻す。

 

トゥーランドットとカラフは皇帝の玉座の前に進み出る。姫は「彼の名は……『愛』です」と宣言する。群衆は愛の勝利を高らかに賛美、皇帝万歳を歌い上げる中、幕。

 

 

 

なっっっっっが。

こうやって書くとえらい長い。いや書いたの私じゃないけど。ありがとうWikipedia先生。

まあでもめっちゃ要約すると「中国の冷酷なお姫様を愛の力でラブ&ピースさせてみんなハッピーハッピー!!」ということになるのがおわかりいただけたかと思います。

私はこれをずっと、正直しょーもない話やなと思っていました(各方面にごめんなさい)。

 

でもほらオペラってだいたいそんな感じじゃん……?歌と音楽と演出と衣装と舞台装置でドババーーーーンってやってわーすげーって感じにさせるけど、話は正直しょーもない感じじゃん……?

って思ってたんですよ今回のトゥーランドットを観るまでは!!

 

結論から言ってしまうと、今回のアレックス・オリエが演出を手掛けたトゥーランドットは、ハッピーエンドじゃないんです。

超バッドエンド。

なんとびっくり、このあらすじはそのままに、ラストのラストでトゥーランドット姫が首を切って自害してしまうんです!!

 

なーーーーー!!??

衝撃的じゃろーーーーーーーーー!!??

 

でもこれがすっごく納得できたんですよ!!すっごく!!ハァーーー演出でこんなに変わるんだなーーー!!って思って!!

 

さてここで突然ですが、私とオペラ・トゥーランドットの長きにわたるなんやかんやをお話ししたいと思います。

 

トゥーランドットとの出会いは、中二の夏。

吹奏楽コンクールの自由曲として演奏することになったのがはじまりです。

そのころから曲は好きだなーって思ってた。曲は。でも話は「うーん?」だったんです。えっ、トゥーランドット、そんな簡単に落ちるの?いいの?なんかこの王子めっちゃ傲慢だけど??って。

 

このオペラについての基礎知識はそのころに頭に入れました。演奏するにあたって曲の理解っていうのはとても大事ですからね。

DVDも観ました。87年にメトロポリタン歌劇場で上演されたもので、世界三大テノールの一人、プラシド・ドミンゴ最盛期の歌声と姿が拝める、トゥーランドットの名盤と名高いものです(これはほんとすごすぎてすごいので、大人になってからブルーレイを入手しました。おすすめ)。

メトロポリタン歌劇場のって「いやアホか」というくらいに豪華なんですよね。もう意味不明。は?これ??舞台上の??セットなんです????みたいな。

 

まあそれはいいとして、トゥーランドットは作曲家プッチーニの遺作であり、未完の名作です。

プッチーニは、第3幕のリューが自害する場面までを書いて心臓発作で亡くなりました。その後の部分は、プッチーニの遺したスケッチをもとにアルファーノという作曲家が書いています。

現在上演されているものは、基本的にこのアルファーノ補作版です。つまりプッチーニが書こうとしていた本当のラストは、いまやだれにもわからないんですね。

 

さてさて高校に進学した私は、なんとここでもトゥーランドットを演奏することになります。

高一の定期演奏会、そして、高二の吹奏楽コンクールです。ちなみに定期演奏会のほうは楽器ではなく、合唱担当でした。

さらにその後声楽の勉強をはじめた私は、まあ音大には入れなかったんですけど、なんやかんやいろいろあって長年のブランクの末にトゥーランドット姫のアリア「この宮殿の中で」を歌う機会にも恵まれます(本番では歌えなかったけど)。

 

というわけで、トゥーランドットにはかなり思い入れがあるんですね、私。すごいどうでもいい話でしたね。

 

で、ですよ。

そんな思い入れのあるオペラが東京で上演されると聞いちゃあ行くしかねぇや!!って感じでなけなしのマネーはたいて(オペラは基本的にお高いです)チケット取ってウッキウキだったんですね。

そんな私の頭の中にあったのは中二のころに観たメトロポリタン歌劇場のトゥーランドットと、本物の中国紫禁城で上演されたトゥーランドットでした。

つまりドジャーーーンババーーーーーンシャランラ~みたいな超豪華できらびやかで大団円ハッピーーーーー!!ってやつです。

 

で、事前に情報収集をしていなかった私は、席についてからパンフレットを見て「新制作」であることを知ります。

ん?新制作……??この演出のオリエさん、「プッチーニが描こうとしたのはハッピーエンドではなかったと思います」って言ってるな……??どういうこと……??

そして舞台装置のイメージボード。なんかこう……SF……??中華感ゼロでは??ていうかきらびやかさ皆無……??

という最初の衝撃と混乱が私を襲ったわけです。

 

そのときはちょっと残念に思ったんですよね。なにせ頭の中がメトロポリタン紫禁城でしたからね。まあメトロポリタン並みに豪華なのは期待してませんでしたが、んーーそうかーーこういう感じかーーー、と。

 

でもね!!

はじまったらね!!

それがなんかよくてね!!

 

SF感あふれる舞台装置にシンプルかつ象徴的な衣装が映える。ライトの演出も相まってなんかこう、宇宙。

そしてじわじわこの身になじむディストピア。

 

そう、ディストピアなんです。

みんな大好きディストピア。

 

し、新感覚ーーーーーー!!

でもほんとこれ、じわじわなじんでじわじわ納得するんですよ。

 

トゥーランドットの話のなにが納得いかなかったかって、まずカラフ王子の傲慢さがあるんですけど(あいつほんとすげぇ傲慢で、愛を語っておきながらトゥーランドットを手に入れることしか考えてないんですよ。……っていうのは私の主観なんですけど)、それに加えて民衆の主体性のなさがあったんですよね。

民衆めっちゃ自分がないの。最初ペルシャの王子の処刑をお祭り感覚でヒャッホイしてたかと思えば、実際に処刑される直前のペルシャの王子にほだされてコロッと態度変えて「彼をたすけてーひどいよお姫様ー」とか言っちゃう。

カラフの謎解きのシーンでは、めっちゃ応援してたくせに次の瞬間にはカラフの敵になる(まあこれはカラフが逆に姫になぞかけをしたせいで自分たちの命が危うくなるっていうのもあるんですけど。で、そんな状況なのにカラフはカラフで自信満々に「私の勝ちだー!」とか歌いあげちゃうからね。なんてやつだ。←このアリアがかの有名な「誰も寝てはならぬ」です)。

第3幕のリューが自害するシーンでも、それまでは「おら吐けーあいつ(カラフ王子)の名前を吐けー。やれやれやっちまえ拷問して吐かせちまえ!」って感じなのに、自害したらコロッと態度変えて「おお、哀れでやさしい、可愛い娘よ、許しておくれ」とか言っちゃう。そしてカラフの味方になる。

そして謎の愛♡ハッピーエンド、っていうのがほんと納得いかなかったんですけど、このオリエ新演出ではディストピア感がすごいがゆえに「どんどんみんな(父親である皇帝も含む)から追い詰められて傲慢な男と結婚するしかなくなったトゥーランドット姫」の像がありありと浮かんでくるわけです。

あーーー!!なるほどなーーーー!!そういうことかーーーーー!!姫は王子の愛に落ちたわけではなかったんだ!!

 

で、ラストは姫自害ですよ。

な、な、な、納得ーーーーーーー!!!!

 

ちなみになんですが、このオリエ新制作では冒頭に音楽のないシーンがつけ足されていて、幼いトゥーランドット姫の目のまえでやさしい祖母が異国の男に暴行されるという、さらに納得なトラウマ要素を倍率ドンしています。

 

トゥーランドットってこういう話だったのか。

と、個人的にはものすごく納得したわけです。

これは衝撃。

そして納得オブ納得。

 

とはいえ、このオペラ・トゥーランドットの元ネタとかまあいろいろ鑑みるに、プッチーニもたぶん普通にハッピーエンドにしようとしてたんだと思います。

でもそれはそれとしてこの解釈はとてもよい。絶対賛否両論だと思うけど。

 

いやー、演出ってすごいですね。

台本同じなのに、ここまで違う話になってしまうんですね。そしてとても現代的な問いかけをはらむものになる。

すごい。

演出すごい。

 

というわけで、オリエ新制作のトゥーランドットが衝撃的すぎたし納得しすぎたって話でした。

これブルーレイとかになるのかなー。なるなら絶対買うー。

 

(ところでお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、拙作『幻影譚』の登場人物リュシエラの愛称「リュー」はこのオペラ・トゥーランドットからとっています。というか「リュー」という愛称が先にあって本名が決まりました。っていうどうでもいい裏話でした)